コラム

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金平糖のツノ

2021.1.19  コラム 

金平糖

明治時代の物理学者で随筆家でもある寺田寅彦が、なぜ金平糖には角(つの)があるかについて考察しています。砂糖を溶かしたどろどろの液体の中に芥子粒を入れて、それを核にして砂糖が固まるならば、球体になるはずではないのかという疑問に答えようとしたわけです。

寺田は、実はこれは、「統計的平均についてはじめて言われうるすべての方向の均等性という事を、具体的に個体にそのまま適用した事が第一の誤りであり」、「平均からの離背が一度でき始め」て、「平均の球形からの偶然な統計的異同 fluctuation が、一度少しでもでき」ると「ますます助長されるいわゆる不安定の場合のある事を忘れ」ていると指摘しています。つまり、現実世界には統計的平均からはずれた少しの異同(フラクチュエーション)が、時間の経過とともに大きな変化をもたらすことを示唆しています。

そして、「従来の物理学ではこの金米糖の場合に問題となって来るような個体のフラクチュエーションの問題が多くは閑却されて来た」けれども、「金米糖の生成に関する物理学的研究は、その根本において、将来物理学全般にわたっての基礎問題として重要なるべきあるものに必然に本質的に連関して来るものと言ってもよい」と述べて、明治時代にすでに、現在の科学でいうところのカオス理論やフラクタルの問題について考えを及ばせています。

金平糖のツノに潜んでいる物理学上の深淵な問題に思いを馳せながら、井筒の金平糖を召し上がってはいかがでしょうか。