コラム

COLUMN

2021年01月の投稿Date

鯨(くじら)と曲(かね)

2021.1.26  コラム 

ものさし

画と文 ㈱井筒東京 常務取締役 井筒周

尺貫法

長さを尺や寸、重さを貫や斤で表す尺貫法は、1958 年(昭和 33 年)に廃止されましたが、いろいろな業界で、まだ普通に使われています。法衣や装束、仏具でも尺や寸が使われます。しかし、「尺」には「鯨尺(くじらじゃく)」と「曲尺(かねじゃく)」の二種類があります。鯨尺の一尺が約 37.8 ㎝で、曲尺は 30.3 ㎝、同じ一尺でも 7.5 ㎝違います。
鯨の一尺は曲の一尺二寸五分になります。
建築関係では曲尺が使われます。指矩(さしがね)と呼ばれる直角に曲がった金属製の物差しで測るので、「曲がる」と書いて曲(かね)と読みます。仏具も曲尺で作ります。

鯨尺は、着物など生地を測るのに使われます。物差しが鯨のヒゲで作られたからというのが名前の由来らしいです。 ところが、ややこしいことに、打敷や下掛は、曲尺で作った卓の寸法に合わせて仕立てますので、布地なのに曲尺を使います。また、なぜか袈裟も曲です。
ところが、色衣は鯨を使います。装束の狩衣なども鯨ですが、建築物にあわせる御幌は曲になります。

落語の『鹿政談』

指矩の絵

余談ですが、落語の『鹿政談』にこんな話がでてきます。「奈良の大仏さんと熊野の鯨が背比べしたら、鯨が勝った」、その理由は、「鯨のほうが曲(かね、大仏は金仏)より2寸5分長い」というのですが、もはや、曲尺と鯨尺の違いを知っている人がほとんどいないので、オチも一般受けしなくなりました。

因みにこのオチの2寸5分は曲尺の2寸5分なので、正確には7.575cm長いということになります。

金平糖のツノ

2021.1.19  コラム 

金平糖

明治時代の物理学者で随筆家でもある寺田寅彦が、なぜ金平糖には角(つの)があるかについて考察しています。砂糖を溶かしたどろどろの液体の中に芥子粒を入れて、それを核にして砂糖が固まるならば、球体になるはずではないのかという疑問に答えようとしたわけです。

寺田は、実はこれは、「統計的平均についてはじめて言われうるすべての方向の均等性という事を、具体的に個体にそのまま適用した事が第一の誤りであり」、「平均からの離背が一度でき始め」て、「平均の球形からの偶然な統計的異同 fluctuation が、一度少しでもでき」ると「ますます助長されるいわゆる不安定の場合のある事を忘れ」ていると指摘しています。つまり、現実世界には統計的平均からはずれた少しの異同(フラクチュエーション)が、時間の経過とともに大きな変化をもたらすことを示唆しています。

そして、「従来の物理学ではこの金米糖の場合に問題となって来るような個体のフラクチュエーションの問題が多くは閑却されて来た」けれども、「金米糖の生成に関する物理学的研究は、その根本において、将来物理学全般にわたっての基礎問題として重要なるべきあるものに必然に本質的に連関して来るものと言ってもよい」と述べて、明治時代にすでに、現在の科学でいうところのカオス理論やフラクタルの問題について考えを及ばせています。

金平糖のツノに潜んでいる物理学上の深淵な問題に思いを馳せながら、井筒の金平糖を召し上がってはいかがでしょうか。